Der Glockenbaum

独逸在住日本人の日々想ふこと。

arteのドキュメンタリーTokyo Freetersに見る日本の労働環境と社会問題

ドキュメンタリー"Tokyo Freeters"

以前、ドイツ・フランスによる共同出資のテレビ局arteで"Tokyo Freeters - Japans junge Aussteiger(2010)"(東京フリーター - 日本の若き脱落者たち)というドキュメンタリーを観ました。

内容としてはその名の通り、東京で生活するフリーターの実情を描いたもので大変印象深いものでした。

全編オリジナルのものがYoutubeにアップされていたので掲載しておきます。


Tokyo Freeters Japans junge Aussteiger - YouTube(ドイツ語版)


Tokyo Freeters - YouTube(フランス語版)

 

フリーターの定義と現状

そもそもフリーターという言葉が作られたのは1980年台後半。

英語の「フリー」つまり自由と、本来はドイツ語の「アルバイター」即ち労働者を意味する2つの単語から作られた造語だそうです。

当時はバブルの影響もあり高給を稼ぎながらも時間に縛られず自由な生活を営むという、どこか自遊人的な意味合いで捉えられていたようです。しかし、昨今ではその生活の不安定さ等から圧倒的にネガティブなイメージの方が定着していると思います。

その定義は色々あるようですが現在では下記のように定義されているそうです。

  • 15歳から34歳

で、下記のいずれかに該当している者

  • 男性は卒業者、女性は卒業で未婚の者で、パート・アルバイトとして雇用されている者
  • 完全失業者で探している職種がパートかアルバイトの者
  • 非労働人口で、家事も通学もしていない人のうち、就業内定をしておらず、希望する仕事の形式がパート・アルバイトの者

 

そのフリーターの具体的な人数ですが、今年2014年2月の厚生労働省の発表によると、前年比2万人増182万人にも及ぶそうです。


前年比2万人増加・フリーター数は182万人(不破雷蔵) - 個人 - Yahoo!ニュース

 

日本とドイツの比較

このTokyo Freetersのドキュメンタリーが制作された2010年を見てみると、183万人と最新の数値182万人とあまり違いが見られないことがわかります。2010年当時、日本国内における雇用の34%がパートやアルバイトに代表される非正規雇用だそうで、ドイツのそれ16%、フランス13%と比較すると倍以上の差があるとドキュメンタリーの中では触れられています(本編開始約13:00あたり)。これは大きな違いです。

ここドイツではTeilzeit(パートタイム)労働者というのが日本に比べて多いと思います。しかし、ここで言うTeilzeit(パートタイム労働)と言うのは日本で言うパートやアルバイトではなく社会保障の対象となる職種のことで、日本でいうパート・アルバイトはドイツではGeringfügig Beschäftigte(些少作業従事者)に入るのではないかと思います。しかしドイツの場合、税金が高いため非課税でこのような些少作業をできるのは450EUR/月(Minijobの場合)までと決められているため、その額を超えてしまうと手取り額が大きく減ってしまいます。その為、ドイツではフリーターのような些少作業・労働で生計を立てる(厳密には、立てられる)人の割合が低いのではないかと思います。

 

ではもう少しカテゴリーを大きくして見てみましょう。日本で言うパートやアルバイトを含む非正規雇用の割合は日本とドイツではどう違うのでしょうか。

 

表1「ドイツにおける非正規雇用者」

http://img.welt.de/img/wirtschaft/crop119464883/8240197875-ci3x2l-w780/DWO-atypische-bescha-ftigung.jpg

出典: Atypische Beschäftigung : In Deutschland entstehen wieder mehr reguläre Jobs - Nachrichten Wirtschaft - DIE WELT

こちらはドイツにおける労働人口の内、非正規雇用に従事する人の割合を示したものです。表の上の項目は左から「年」、「合計」、「有期・非常勤労働者」、「(先述の)Teilzeit(パートタイム)労働者」、「(先述の)些少作業従事者」となっています。

 

表2「日本の正規雇用と非正規雇用労働者の推移」

http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/genjo_kadai/images/1.jpg

(資料出所) 総務省「労働力調査(特別調査)」(2月調査)及び総務省「労働力調査(詳細結果)」(年平均)長期時系列データ
(注) 1) 2005年から2011年までの数値は、2010年国勢調査の確定人口に基づく推計人口(新基準)に切替え集計した値。
  2)
3)
4)
5)
2011年の数値及び前年差は、被災3県の補完推計値を用いて計算した値。
雇用形態の区分は、勤め先での「呼称」によるもの。
正規雇用労働者:勤め先での呼称が「正規の職員・従業員」である者。
非正規雇用労働者:勤め先での呼称が「パート」「アルバイト」「労働者派遣事業所の派遣社員」「契約社員」「嘱託」「その他」である者。

出典: 「非正規雇用」の現状と課題 |厚生労働省

一方、こちらが日本の非正規雇用者の実態です。

では、上の表2つを比較してみましょう。

 

表2「日本の正規雇用と非正規雇用労働者の推移」の「契約・嘱託社員」及び「派遣社員」は上の表1「ドイツにおける非正規雇用者」と比較すると、社会保障の対象となり有期契約の場合が多いがそのほとんどがフルタイム労働であるという点を考えると表1の「有期・非常勤労働者」とほぼ同等のものとみなすことができるのではないかと思います。

つまりは

表1「有期・非常勤労働者」=表2「契約・嘱託社員」及び「派遣社員」

と見られるということです。

 

表2「日本の正規雇用と非正規雇用労働者の推移」の注釈によると非正規の割り当ては職場での呼称による分類になっているようですので、ここでは「パート」と「アルバイト」にはあまり大きな定義の違いは見られないと思います。そのため社会保障の対象とならず、主に有期限でパートタイム労働をするという観点から表2の「パート」及び「アルバイト」は表1「ドイツにおける非正規雇用者」のGeringfügig Beschäftigte(些少作業従事者)と同等のものと見ることができると思います。

その日本における「パート」および「アルバイト」の人数ですが、表2から「パート」928万人+「アルバイト」392万人=1320万人に及ぶことがわかります。一方、表1のGeringfügig Beschäftigte(些少作業従事者)の人数ですが、表1では割合しか掲載されていなかったのでBundesagentur für Arbeit(ドイツ連邦雇用庁)のサイトで実際の人数を調べてみました。それによると、ドイツ国内におけるGeringfügig Beschäftigte(些少作業従事者)の最新の人数は2014年7月時点で約744万人となっていることが分かります。興味深いのは、その内で副業としてではなくそれに専属的に従事している人の人数が505万人という結果が出ていることです。

つまり、

表1「些少作業従事者」=表2「パート」および「アルバイト」

と概ね比較することができ、

日本のパート・アルバイト従事者: 1320万人

ドイツのGeringfügig Beschäftigte(些少作業従事者): 505万人

という比較ができることになります。

 

日本に非正規雇用者が多い理由とその問題

どうでしょうか?日本におけるパート・アルバイトに従事する人口の多さが浮き彫りになりましたね。

ではなぜ、日本はこんなにもパート・アルバイトに従事する人が多いのでしょうか。それは日本の税金が低いということの他に、日本ではドイツでいうところのTeilzeit(パートタイム)という職種が少ないからだとも思います。

前で少し触れましたがドイツにおけるTeilzeit(パートタイム)労働というのは、社会保障が適応になることが殆どで尚且つ労働時間が限定的という働き方で無期限雇用が多いように思います。平たく言えば、労働時間が限定的な正社員と言ったところでしょうか。こうしたスタイルの働き方をする人がドイツでは年々増加していると言います *

* Rasanter Anstieg : 5,7 Millionen arbeiten als Teilzeitbeschäftigte - Nachrichten Wirtschaft - DIE WELT

このドイツのTeilzeit(パートタイム)労働との比較は、日本のワークスタイルの種類の乏しさが結果として非正規雇用者を多く生み出していることを物語っています。

 

日本の就職システム

その他にもパート・アルバイトが日本に多い理由があります。それは、日本の甚だ馬鹿馬鹿しい時代錯誤な就職システムです。日本では、俗に新卒と呼ばれる就労経験のない学生を終えたばかりの若者を企業が集団で一括採用し手に塩かけて育てていくという、世界的に見ても不可思議な就職システムが構築されています。このシステムの"おかげ"で、一度就職活動がうまくいかなかったり、留学やその他の理由で就職活動を開始する時期がずれてしまったりすると、希望する業種・職種はおろか職に就くこと自体が難しくなってしまうという理解不能な現状があります。ここで就職することができなかった若者は、就職活動を行うも学生という身分さえも失っている為、就職も難しく結果的にパート・アルバイトという職種に就くかざるを得ないというケースも多いようです。全く馬鹿馬鹿しい話です。もはや21世紀に入り久しいというのにこの時代錯誤で理解に苦しむ就職システムのせいで、日本ではたったこれだけの理由でその後の人生全てが大きく変わってしまったりするのです。これでは少子高齢化が世界トップレベルで進む日本としては労働力が低下し、結果として産業力低下、国力低下という自体をも引き起こしかねません。グローバルスタンダードという言葉が頻繁に使われるようになって久しいですが、日本は携帯の脱ガラパゴス化だけではなく、就職システムにおいても世界基準で脱ガラパゴス化していく必要があるのではないでしょうか。

私自身、今までアルバイトの経験は殆どないといっても良いくらい少ないのでフリーターになるという概念は一切ありませんでしたが、大学卒業後、ドイツ行きを決め就職した企業を辞めた後、計画を立てている段階や実際の渡独までの期間にアルバイトをしていた時期がありました。勿論、渡独するため期間限定でしか働けない旨などは伝えていなかったので、今思えば自分もフリーターという括りで見られていたのだなと思います。しかし、この「括り」も日本の大きな問題点だと思います。

 

集団主義に起因する日本の「見下し社会」

日本人は自分の精神的な安定の為かすぐにグループや集団に属したがる傾向にあると思います。これは集団主義に大いに由来する点です。そしてその所属集団が世間一般に「有名である・認知度が高い」ものになればなるほど良いとされる傾向があると思います。しかしそこには勿論、そのヒエラルヒーにおいて有名な集団に属せない人たちもいるわけです。そのような人々を特に集団で以って見下す傾向が非常に強いのが日本社会の特徴だと思います。「勝ち組・負け組」に代表される概念はその象徴ではないでしょうか。学歴や職歴などの所属集団の履歴にばかりこだわって、その人物という個人を見ようとしないのも日本社会の短所だと私は考えています。

実際に私がドイツに渡って来たのも、こうした日本の集団主義に起因する「見下し社会」の風潮や、日本の劣悪な労働環境に甚だ嫌気がさしたからです(憎悪すら感じます)。

 

雇用状況が人間に与える影響

ドキュメンタリー本編中、開始約17:55に衝撃的なフレーズが出てきました。

Nach japanischem Verständnis ist jemand, der nicht dauerhaft einem Unternehmen angehört und in dessen soziale Struktur integriert ist,  praktisch nicht existent.

日本人的な理解によると、継続的に企業に属さずその社会組織にも適応出来ない者は存在しないも同然らしい。

このフレーズが出てくる少し前(約16:55)にインタビューを受けた元フリーターの女性が、自殺に関する本を出版したと言っています。フリーターの時期に彼女は周りの同じような環境にある人々の自殺を多く目の当たりにし、そしてそこで気づいたのは「それは個人の問題ではなく日本社会に問題があるということ」だそうです。

残念なことに毎年年間で3万人を超える自殺者を生んでいる日本(世界13位…嫌なランキングですね…)ですが、その理由としてこうした「一度失敗した人が復帰できない社会構造」や先の「見下し社会」なども影響していることは容易に推測できると思います。テーマからはずれますが、ドイツの自殺者数は日本の半分以下で53位になっています。

非正規雇用の職にしか就けず一度フリーターというカテゴリーに括られてしまった人々は、その不安定な生活から精神が不安定になり時には自ら命をもたとうとする。これも忘れてはならない日本社会の一面ではないでしょうか。

 

今後の日本社会

働き方、生き方までもが多様化しつつある現代において、フリーター当人がそのライフスタイル、ワークスタイルを望むのであれば話は別ですが、先にも述べたように「新卒」に代表される日本のくだらない就職システム等のせいで就職時期を逃しフリーターになってしまったなど、当人の意とは反する理由で社会から阻害されてしまった人々に関してはある種の犠牲者にも思えてしまいます。人間は誰でも失敗や過ちをするものです。ですから、「一度失敗したとしてもやり直せる環境」というのが本来集団に属するべきメリットなのではないでしょうか。

番組の最後の方で社会活動家の湯浅誠氏がこのようなことを言っていった。

私は昔の日本が素晴らしかったとは思っていない…省略…重要なのはかつてのように世界第二位の経済大国になることよりも、この国に住むより多くの人々が幸せを感じられる国にすることだ。

まさにその通りだと思います。そのためには、一度失敗してもやり直せる環境を作り、現在の社会構造を見直すと同時に、社会全体で「働く」ということへの意識改革をする必要があるのではないでしょうか。

そして、私たち日本人はこの番組最後の一文の意味をよく考え実行する為のまさに過渡期に今いるのかもしれません。今回、このドキュメンタリーを改めてみて、多くを考えさせられました。

Manche Japaner sagen, sie hätten so viel Zeit damit verbracht, die USA zu kopieren, dass sie sich gar nicht mehr als Japaner fühlten. Deshalb sei die Zeit reif, zu ihrer eigenen Identität zurückzufinden und sie der Welt zu zeigen.

日本人は膨大な時間をアメリカのコピーをする為に費やし、日本人であることさえも実感できないようになってしまった。その為、今こそ己のアイデンティティーに立ち返り、それを世界に示さなくてはならないのではないだろうか。

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